通し柱信仰

カドケン

2011年10月18日 10:16

今日は少し難しい話ですが・・・、
柱のお話です。


建築基準法には、柱に関する決まりがいくつかあります。

その中での一文
”階数が2以上の建築物におけるすみ柱またはこれに順ずる柱は、通し柱としなければならない。ただし、接合部を通し柱と同等以上のらい力を有するように補強した場合にはこの限りではない。”(基準法施行令43条第5項)

とあります。

要約すると2階建ての柱は通し柱にするか、補強しなさいということです。

もともと木造は非常に柔らかい構造ですので、固める為にたくさんの知恵を使います。
大工さんたちと話をしていても、よく出てくる語句が、
「この方がしっかりしているから」と、いう言葉です。

それだけ柔らかいということが前提だからだと思います。
鉄骨の建物の打合せでは決してこのような言葉は出てきません。

前述の通し柱の法文もそういう工夫の一部が法文化されたのだと思うし、

一般の方でも通し柱が多いほうが丈夫だと思っている方が結構いらっしゃる気がします。

しかし大工さんと話していると(ある程度考えている方は)
「通し柱なんて弱い」と、言います。

その理由は仕口(部材の接合部)にあります。

このあたりでよく使われる柱のサイズは4寸(120mm)。
その柱に、胴差し(水平に入っている、2階の床を受ける材料)をつなぐ為に柱を欠きます。

建物の真ん中に入っている柱なんかは、四方から胴差しが入ってきますから、たくさん欠かなきゃいけません。
 
欠いた柱は、欠かない柱の25%しか(耐力を発揮する)断面として残りません。

※欠かない柱の有効断面積=12x12=144cm ^2
※4方欠いた柱の 〃  =おおよそ3x3x4=36cm^2
※36/144=0.25



別に25%だろうがなんだろうが実情に問題なければ良いのですが、

先日起きた栄村の地震↓



アップ↓


隅の通し柱がぽっきり折れていますね。

衝撃的な破壊事例をもうひとつ↓


これは1階にあったシャッターを押しつぶして2階が地面に付いてしまっています。



さて、地震の時には大きく横に建物が変形します。
基準法で想定されている木造の変形量は、中地震で1/120rad、大地震時で1/30rad。

難しい表現ですが、要するに
一般的な3mの柱の高さに対して中地震(震度5程度)では3000/120=25mm
大地震(震度6以上)では100mm変形することを想定しています。

ところが4寸の四方差しの断面に荷重をかけると、実際は1/60rad付近で折れてしまうのです。

ということは、大地震では4寸の通し柱では2階が落ちてくるということです。


多分上の写真は柱が3.5寸(105mm)程度ではなかろうかと思いますし、
一般的に隅は通常二方差しですのでそこまで極端ではないと思いますが、
危険性が潜んでいるのは確かです。

ちなみに基準法想定の大地震時1/30radを満足させられる柱は5寸(150mm)以上です。
昔の家の柱が基本的に5寸程度で出来ているのは、ちゃんとわけがあるんですねー。




こむずかしい話をだらだらと書きましたが、

僕がこのめんどくさい話でお伝えしたかったのは、
法規どおりに字面どおりに解釈しても良いものは出来ない、と。

基準法でOKだからそれでよいのかと言うと、全然そんなことないでしょうし、
自分の頭と手と足でちゃんと確認したうえで設計したいなと、思うのです。

ちなみに僕は現在は、やはり4寸の柱も通し柱もやめろとは言えませんので(工事金額的に難しい)
心配だと思うところは金物でつなぐことにしています。
これでも大変形はするでしょうが、2階が落ちてくることはないだろうと思います。

しかし不思議なもので、これも基準法的には入れなくて良い金物なんですよね・・・うーん、悩ましい。


まあこんなことしてるからどうも仕事の進みが悪いんですがね・・・(~_~;)

高遠